ヒット商品をめざせ! 学生のアイデアで、企業の課題を解決。
森 生産者直売のれん会では、大阪の辻学園の新カリキュラム「食の6次産業化プロデューサー養成講座」のコーディネートを行っています。この講座では民間企業や地域団体から課題をいただき、それを解決する商品を生徒たちが開発。「ヒット商品を生み出せ」をサブタイトルに掲げ、チームごとに商品を企画・提案し、優秀な作品と認められれば実際に商品化されます。
たとえば第1回目は、宮城県石巻市で被災した『木の屋石巻水産』さんからの商品開発依頼で、課題は「サンマを使った、若い人にも受け入れられるような缶詰」でした。この回は8チームの中から豆乳入りのサンマ缶が最優秀賞に選ばれ、商品化も実現。10万缶ほど製造するという話が進んでいます。
黒川 缶詰の製造ということで原価も含めて制約がありますが、社会に出ればそれも当たり前。社会で求められている仕事を講座で与え、学生にもきちんとした仕事で返してもらう。学校の授業とはいえ、生徒には「ビジネスとして取り組んでほしい」と伝えています。
商品開発を通して、社会で求められる協働力や提案力も育成。
森 そもそも三幸学園との取り組みが始まったのは、辻学園で新しいカリキュラムの導入を検討していたことがきっかけです。そこで私たちは、内閣府が推進している「食の6次産業化プロデューサー」という資格を取得する講座を作りましょうと提案。それも単なる座学ではおもしろくないので、これまでにどこもやったことのないような実践面の強い講座をめざしたんです。
のれん会の会員には、食品製造の中小企業や地域の団体がたくさんいらっしゃるので、そこからリアルなビジネスの課題をいただき、それを生徒に解決させてはどうかと考えました。商品を生み出す過程では意見がぶつかることもありますし、コミュニケーションも必要となりますが、そういったプロセスは社会でも求められるもの。この講座の課題を通して、調理技術とはまた違った力を身につけてもらえればと思っています。
生徒のレスポンスや能力は予想以上。それが企業の刺激にも。
森 学内コンテストではチームごとにプレゼンテーションを行うのですが、生徒が自主的にパワーポイントで資料を作ってきたり、いろんなデータを集めてきたりするんですよ。各チームの発表を見ても、すごく勉強しているのがわかりますし、出てくるアイデアや試作品も素晴らしい。たとえば「20代女性の家飲み用おつまみとして作りました」とコンセプトが明確になっていたり、学内の生徒にアンケートを取って、それをもとにした商品を考えてきたり...。
この生徒たちのレスポンスや能力は予想以上で、私たちも感動しました。本当にみんな熱心に課題に取り組んでくれていますし、なおかつ明るくて元気。辻学園の生徒に対して、今はいい印象しかないですね。そしてその陰には、先生方の大きなバックップがあるのだと思います。
黒川 特に第1回の時は、クライアントから震災の現状や復興の難しさを伺っていたので、生徒たちもどうにか役立ちたいという気持ちが大きかったようです。みんなすごく頑張って作っていたこともあり、2位になった子たちは悔しさから泣いてしまって。この涙は真剣に仕事した証しだなと、そう感じました。
森 その生徒たちの真剣さは、クライアントにも響いています。第1回の『木の屋石巻水産』さんからは、ぜひ来年も商品開発をお願いしたいとお声がけいただいています。
黒川 第2回の秋田の養豚業者『ポークランド』さんは、生徒が考えた豚肉料理に非常に感動して、優秀3チームに2泊3日の秋田研修旅行をプレゼントしてくださったんです。秋田では生徒が考えた商品の販売実習に加え、養豚場見学や観光の案内までしてくださって。それほど生徒たちの取り組みが、クライアントの心を打ったのだと思います。
森 またポークランドさんからは、社員の方も学生から刺激を受けたと伺っています。どうしても商品開発はマンネリ化やパターン化に陥りがちなので、辻学園の生徒たちの発想や熱意が社内的にもいい影響を与えたようです。
辻学園が生み出す"プロの仕事"は、きっと日本のためになる。
黒川 この講座で大事なのは、学生が作ったというだけでお客さんが買うような商品ではなく、繰り返しお金を払ってでも買いたくなるような"売れる商品"を作ること。それを実現できるポテンシャルが、辻学園の生徒にはあると実感しています。このまま継続していけば、こうした商品開発機能が社会から辻学園に求められるようになり、相談案件も増えてくると思うんです。
企業からすると商品開発のコストは大きな負担になりますので、これを外部化できるのは本当にありがたいお話。しかも辻学園にお願いすればプロの仕事が返ってきますから、期待も大きいと思います。食品メーカーで10年20年働いた選手にはない学生ならでは感性も、社会で役立つ可能性は大きいでしょう。
森 この講座は生徒や企業にとってプラスになるだけでなく、大きく言ってしまえば、日本のためになるのではないかと。そういう想いのもと、私たちも楽しみながら取り組みを進めています。そしていつか、東京の駅で100万個売れるような商品が作れたらいいですね。一人でも多くの学生に、自分が作った商品が売れる喜びも経験してもらいたいと願っています。